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The protagonist notices a coworker, Yamabuki, eating a sandwich in the break room. They join Yamabuki and discuss the restrictions nurses face in regards to eating and drinking. They also discuss a doctor who treats the nurses poorly. Later, the protagonist sees a video with Yamabuki and other coworkers, bonding over snacks. They decide to confront a suspicious resident in their apartment building and discover a young girl being mistreated. The protagonist and their coworker report the situation to the police and the girl is rescued. The protagonist reflects on their interaction with a patient, Big Oka-san, and the importance of teamwork among nurses. 翌日もよく晴れている。 お昼休み、休憩室に行くと、先に休憩に入っていた後輩の山吹奏が、椅子にだらしなく座ってサンドイッチを食べている。 「うずきさん、お先です。」 「うん、お疲れ。」 私は買ってきたおにぎりとお茶をテーブルに置いて、山吹の隣に腰を下ろす。 ナースステーションの中では、看護師は基本的に何も食べたり飲んだりできない。 衛生的な問題が一番大きいけれど、患者やご家族が見たら不快に思うかもしれないという理由もある。 死後も、なるべく控えなければならないし、泣いたり爆笑したりすることもできない。 だから、ドア一つ隔てて患者にもご家族にも顔を合わせずに住む休憩室というのは、看護師にとっては仕事中のオアシスみたいな場所だ。 これ、にこしばさんのご実家からのお土産ですって、みなさんでどうぞってにこしばさんが置いていきました。 テーブルの上には、長野名家と書かれた箱が置いてあり、古放送のお菓子が並んでいる。 すでにいくつか減っているので、夜勤明けの誰かが食べたのだろう。 にこしば匠さんは病棟唯一の男性看護師で、主任をしている。 切れ長のクールな目元と薄い唇は、どこかミステリアスな雰囲気があり、患者にもご家族にも医療スタッフにもファンが多い。 独身の頃に大勢のご家族からバレンタインチョコを渡されたという逸話の持ち主だ。 その時にこしばさんは、「ご遠慮させていただきます。申し訳ありません。」と丁寧に断り、ホワイトデーには全員に感謝の手紙を書いたそうだ。 ナースステーションの入り口に、「ご家族様へ、看護師への差し入れはお断りさせていただきます。」と張り紙がされているのは、にこしばさんのこのエピソードのせいらしい。 病院の看護師はみんな看護部に所属している。看護部のトップは看護部長だ。 看護部長にはほとんど接する機会がなく、私は入職式でしか会ったことがない。 部長の下、各病棟に師長がいて、看護師にとっては師長が病棟で一番の上司にあたる。 長期療養型病棟の師長は高坂つばきさんという女性で、控えめに言ってもいるだけでその場に緊張感が漂う。 特に何か良くないことを告げるときのちょっとねちっとした高い声を聞くと、みんなの背中がいくっとする。 患者さんやご家族にはもちろん優しいし、対応も丁寧だ。 でもぴったりとしつめられた長い髪とつり上がり気味に描かれた眉と同じく少しつり上がった目は、向かい合うだけで緊張する。 師長の下に二人の主人がいて、その下に私たちみたいな平野看護師がいる。 主人は私たちと師長の間を干渉する役割も担っているのだ。 特に三越場主人は大きなビーズクッション並みの包容力だと思う。 朝倉と本木が休憩室に入ってくる。 本木は、「はい。」と返事をしている。朝倉に何か教えてもらったのだろう。 朝倉さんと本木ちゃんもお菓子どうぞ。 山吹が自分のお土産のように勧める。 新人の本木を本木ちゃんと呼ぶのは山吹だけだ。 山吹は二年目だから初めて自分に後輩ができて嬉しいと前に話していた。 ありがとう。ありがとうございます。 朝倉がサラダと総菜パンをテーブルに置く。 本木もバッグの中からお昼を取り出している。 これめっちゃおいしいとこのやつですよ。 山吹が私に顔を向けて言う。 彼女はスイーツに詳しい。 そうなの?楽しみ。 私はお菓子を一つ取ってお茶の脇に置いた。 そこで山吹が、はぁーと大げさなため息をつく。 なにどうしたの? あの研修医まじで使えないんですけど。 山吹は台服のように白くふっくらした頬を余計にふくらまし、 この春から一緒に働いている研修医の名前をあげた。 ああ、確かにあの人ちょっとやばいよね。 私も同意する。 医者にもいろんな人がいる。 患者のために熱心に治療をする先生がほとんどだけれど、 中には何か勘違いしている先生もいる。 自分は使えないくせにナースのこと飯使いみたいに扱いあがって、 まじでむかつきましたよ。 山吹はサンドイッチを食べ終えて、長野めいかに手を伸ばす。 すっごい天狗っていうか、 俺様はお医者様だみたいな態度をとる医者、本当にいるんですね。 山吹の文句は終わらない。 でもここでならいいのだ。休憩室でなら許される。 看護師だけが集まり、 束の間薄衣の天使という役割から解放される場所なのだ。 それをナースステーションや病室には持ち込まない。 ここで吐き出すからこそ持ち込まずにいられる。 医者への文句くらい吐き出したい。 医師たちには医局という場所があるが、 医局には偉い先生もいたりするから、 先生たちは先生たちで大変だろうなと思うこともある。 ああ、これ本当においしい。周りサクサクで中はめっちゃクリーミー。 山吹がお菓子を食べながら嬉しそうな声を出す。 向かいに座る朝倉がお菓子を二つ取って、 一つを本木に渡してあげている。 すみません、ありがとうございます。 本木は礼に正しい。仕事ぶりも優等生善としている。 休憩室にいるときくらい、もう少し砕けても大丈夫だよと言ってあげたくなる。 でも今はプリセプターの朝倉が一緒にいる。 あまり口出しはせず、朝倉と本木の関係性を尊重しようと思い、 私は黙っておにぎりをほおばった。 山吹は二つ目のお菓子を食べながらスマートフォンをいじっている。 ランスステーションには私物の持ち込みはできないから、 休憩室に来ないとスマートフォンを見られない。 うずきさん、これ見てくださいよ。めっちゃウケる。 山吹が見せてくれた動画は海外のドッキリ動画だった。 男性が歩道に止められた自転車にまたがる。 その瞬間、サドルがビヨンとバネのように反発して、 男性は驚き、派手なリアクションをとりながら道に転げた。 いわゆるやらせなのかもしれないけれど、 繰り返し流れるその動画は確かにバカバカしくて面白い。 なにこれ。一緒になって笑う。 山吹は壺に入ったのか、ひいひい言いながら笑っている。 こういう時間を過ごすと、また午後も頑張ろうと思える。 看護師の仕事はきつい時もあるけれど、仲間がいるのは心強い。 大岡さんの思い残しは今日もベッドサイドにいた。 私は午後も思い残しを見ながら仕事をするのだ。 長野メーカーは仕事終わりのおやつにしようと思ってバッグに入れた。 仕事の後、19時過ぎにグレイス港台の近くのケイマートに行ってみる。 108号室の男性はこの店の袋を下げていた。 あの日の帰宅は20時頃だったから、この時間ならもしかしたら会えるかもしれない。 偶然を願いながら、まず店内を一周して、いないことを確認してから店の前に立つ。 時々スマートフォンを耳に当てて話すふりをする。 誰かと待ち合わせをしているように見えるだろうか。 じっと立っているだけだから体が少し冷えてきた。 足踏みをして夜空を見上げる。 30分ほど待った時だった。 会社員風の中年男性がこの間と同じように疲れた様子で近づいてくる。 それは108号室の男性に間違いなかった。 思い残しにどう関係しているのかわからないけれど、 とりあえずはこの人のことをもう少し知りたい。 そう思って男性の後をつけた。 店に入るとビールを数本とチーズかまぼこをかごに入れる。 晩酌だろうか。 その後パンのコーナーへ行ってメロンパンとチーズ蒸しパンも入れた。 甘いものも好きらしい。 その後リンゴジュースとオレンジジュースを。 お菓子コーナーでチョコレートやグミなども特に吟味せずに放り込んでいく。 その様子を見て私の中に小さな違和感が生まれる。 一人暮らしの中年男性にしては何かチグハグな印象を受けた。 でもジュースやお菓子が好きな中年男性だってたくさんいるだろう。 もしかしたら一人暮らしじゃなくて家族の分かもしれない。 でも私が見ていた限りあの部屋にはこの男性以外出入りする人はいなかった。 部屋の前もベランダも殺風景だった。 男性が会計を終えて店を出ていく。 さりげなく後をつける。 男性は私の美行には気づかずグレイス港台に入って行ったので、 私も少し緊張しながら素知らぬ顔をしてマンションに入る。 男性は鍵を開けて108号室に入って行った。 さてここからどうすればいいだろう。 中年の男性が一般的なイメージより多めにお菓子や菓子パンを買ったというだけで何もおかしいことはしていない。 でも微かな違和感は拭えない。 腕を組んでしばらくマンションの廊下で佇んだ。 今日も帰るしかないのかと鋼しながらエントランスホールのソファーに座る。 その時バイクのような音が聞こえたと思ったら黒い大きなリュックを背負った若い男性がエントランスから入ってきた。 食事の宅配のリュックだ。 早足で私の前を通り過ぎ108号室の前に立ったようだ。 私は利き耳を立てる。 配達員がチャイムを鳴らす。 デリバリーキングです。 はーい。 男性の声で返事がする。 少ししてドアが開いた。 配達員の男性がリュックの中から食事を取り出している。 配達員の男性がリュックの中から食事を取り出している。 えっとひれかつ定食とお子様ランチですね。 思わずソファーから立ち上がる。 今お子様ランチと聞こえた。 やっぱりあの部屋には男性以外に誰かいるのだ。 言いようのない焦燥感に駆られる。義務感に近いかもしれない。 そしてあの思い残しの女の子の顔が浮かぶ。 寂しそうな視線を思い出す。 もしあの女の子がここにいるとしたら、 大岡さんが思い残す理由が何かあるはずだ。 確かめなければならない。 私は駆け足でエントランスを出てベランダの方へ回った。 フェンスの下から手を入れて小石を数個掴む。 フェンスを上り108号室のベランダに一個投げ入れる。 コツンと固い音を立てて小石がベランダ内に落ちる。 やましいことがあったとしても音の出どころは気になるだろう。 一瞬でもカーテンを開けてくれれば、 その時に部屋の中を確認できるかもしれない。 もう一個投げ入れる。 コツンと固い音がする。 動きはない。握る小石が冷たい。 もう一個投げる。 室外機にでも当たったのか、パーンと金属の大きな音がした。 次の瞬間、ぴったり閉じられていたカーテンがスッと開いた。 中年男性が顔を覗かせる。 私は木の陰でバレないように体をすくませながらも、 カーテンの隙間から見える室内を覗いた。 そして、ひっと小さく悲鳴をあげる。 カーテンの隙間から見えたのは、床にペタンと座った女の子の姿だった。 片方の足首にロープが巻いてあり、 その先に大きなダンベルがいわいてある。 足枷にしているのだ。 長い髪を二つに縫って、白いTシャツにピンクのスカートを履いている。 それは、大岡さんの思い残しの女の子そのものだった。 いた。見つけた。 思い残しの女の子の身に何か起きている。 あの男性の娘だとしても、あれは虐待だ。 私は勢いよくフレンスから飛び降りて、エントランスホールに走った。 管理人室にはまだ明かりがついている。 すみません、管理人さん。 大きな声を出すと、受付窓のレースのカーテンが開き、金縁眼鏡の女性が顔を出した。 何ですか?あら、あなたこの前の… 先日私をいぶかしげに見ていた管理人さんは、私のことを覚えているようだった。 あの108号室の男の人って一人暮らしですか? 気がせいて口調が早くなる。 はい?娘さんがいますか? そんな住人のプライバシー教えられるわけないじゃない。 そうなんですけど、えっと、今あの部屋で子供が、女の子が足枷をつけられているのを見たんです。 焦って言葉が舌先でもつれる。 管理人さんはぎゅっと二肩にシワを寄せて、私の言葉の真意を確認しているようだった。 本当です。ベランダ側の窓から見えました。 白いTシャツにピンクのスカートの、髪を二つにゆった女の子です。 足首にロープが巻かれて、ダンベルみたいなものにつながれていました。 管理人さんは私をじろりと見てから、すぐ横にあったファイルのようなものを開いた。 住人の情報が書いてあるのかもしれない。 女の子と言ったかしら? はい、実際くらいの女の子です。 足首にロープは本当? はっきり見ました。 信じてもらえるように訴えるしかない。 管理人さんは腕を組み、目をつむって考え込んでいる。 そう簡単には協力してもらえないか。 でももう一押ししてみようと口を開きかけたところで、 管理人さんははっと目を開け、スタスタと受付窓の横のドアから出てきた。 華奢で背の低い女性だった。 背筋がキンとしていて姿勢がいい。 108って言ったわね? はい、そうです。 管理人さんは早足で108号室の前へ行き、インターホンを押した。 少し間があって、はいと男性の声がする。 こんばんは、管理人のカジですけど、遅い時間にすみません。 ちょっとお部屋の中を拝見することってできますか? え?今ですか?何でですか? 申し訳ないんですけど、ペットを飼っていらっしゃるんじゃないかって住人から当初が来たんです。 飼っていないならいないで確認させていただいて、管理会社に電話しないといけないのよ。 ごめんなさいね、私も仕事だから。 管理人さんはさらっと嘘をついた。起点の聞く人だと驚いた。 はあ、ペットは飼っていませんよ。ちょっと散らかっているんで、今日はお断りしたいんですけど。 管理人さんは、分かりました、失礼しますと意外にもあっさり引き下がった。 どうするんですか? 私は管理人さんに詰め寄る。 念のため警察を呼ぶわ。受け答えが少し動揺している様子だった。 一人暮らしなんだから、部屋を見せたってかまわないはず。 とりあえず今はあなたのことを信じるわ。何事もなければそれでいいんだから。 そう言って、管理人さんはポケットからスマートフォンを取り出した。 いつもより早く帰ってきた。 いつもより早く目が覚めた。眠りが浅かった気がする。 警察の人と話す機会なんてないから、緊張して疲れたのかもしれない。 出勤まで時間に余裕があるから、ゆっくり朝ごはんを食べる。 お湯を注げばできるかぼちゃのポタージュをスプーンでかき混ぜながら、焼きたてのトーストを頬張った。 出勤するとすぐに大岡さんのベッドサイドへ行き、静かに話しかける。 大岡さん、グレイス港台の女の子、無事に保護されましたよ。 管理人さんが警察を呼んで事情を説明した。私も話を聞かれた。 警察は念のためと男性の室内を捜索し、女の子を発見した。 女の子は男性の子供ではなく、連れ去った子だったそうだ。 男性は現行犯で逮捕された。 失くしたピアスを探していたら偶然窓から室内が見えたという私の嘘はまるで疑われず、 行方不明だった女の子の居場所を突き止めたことで警察に感謝された。 でもあの子を見つけたのは私じゃない、大岡さんだったのだ。 供述によると男性は両親が他界してからずっと一人暮らしをしており家族が欲しかったらしい。 それでマンションの近くで見かけた女の子をこんな娘がいたならという思いから声をかけて家に連れて帰ってしまった。 だから食事や飲み物はしっかり与えていたし、いたずらもしていなかったという。 しかし自分の私欲のために人を、ましてや立場の弱い子供を傷つけるなんてことは決して許されることではない。 同じように家族がおらず一人で闘病している大岡さんが、家族が欲しいとなった。 同じように家族がおらず一人で闘病している大岡さんが、家族が欲しいと願い一戦を越えてしまった男の犯罪を暴いた。 何かしらの因果を感じてしまうのは私に思い残しが見えるからだろうか。 大岡さん、あの女の子の声を聞いたんですか? 薬を飲んですぐ食事を取らないほど慌てて家立に登って確認したってことは、 助けて、とか、そういった声を聞いたのでしょうか。 それで足枷をされている女の子の姿を見た。 警察を呼ばなければと慌ててスマートフォンを取り出したけれど、血糖値が下がり始めてしまって意識を失った。 そうだったんでしょうか。 助けてあげなければと大岡さんが強く思った結果、目に焼き付いた女の子の心細そうな姿がきっと思い残しとして現れたのだ。 返事のない大岡さんに語りかける。 あなたが自分の体よりも優先しようとした女の子、助かりましたよ。思い残し解消しましたよ。 意識がなくなっても聴覚は最後まで残ると言われている。 どうか私の声が聞こえていますようにと願いながら大岡さんの手をそっと握った。 うずきさん、点滴のダブルチェックお願いできますか。 山吹の声にはっと我に返る。 はーい。返事をして私はベッドサイドを離れた。 点滴のチェックを終えて大岡さんの部屋に戻ると、女の子はいなくなっていた。 窓の外には陽光を反射した桜吹雪がキラキラと舞っている。